五十嵐一輝に訊いた「なぜゴゼヨでもアプドリでもなくシルエなのか」

2017年9月30日。

新潟の若手バンドシーンを牽引してきたバンド・午前四時、朝焼けにツキ(以下:ゴゼヨ)が解散を迎えた。

大型フェスへの出演、全国リリースに全国ツアーと、傍目には順風満帆に映っている中での解散で多くの方が最期を惜しんだ。

 

そのフロントマンである五十嵐一輝がこの度“シルエ”というバンドを率いて帰ってきた。

普段多くを語らない彼にその胸中を訊いてみた。

 

 

インタビュー、文:ぶるーの

 

 

“このままオレの一生終わるなって思った。


ーいきなり核心を突いて申し訳ないのですが、どうしてゴゼヨは解散という結果に?

 

単純にザックリ言うと、音楽性の違いというのは大きくて。

元々、僕はUp dripper(以下:アプドリ)というバンドをやっていて、午前四時、朝焼けにツキというバンドのことは知りませんでした。ベースの圭太(シルエ)に教えてもらって1曲知っていたくらい。前ボーカルの亮輔くん(a crowd of rebellion)が辞めるタイミングで誘ってもらった形になります。

 

アプドリが丁度メンバーも揃って、「これから頑張っていこう!」というタイミングで、「アプドリを辞めて入ってほしい。」ということだったので一度お断りしたんです。

でも最終的には「アプドリを辞めなくていいから、入ってほしい」ということになって、辞めなくてもいいのであれば、自分の活動の幅も広がるし、アプドリにとってもメリットも大きいなと思って加入を決めました。

 

元々知らなかったのもあって、バンドに入ってから好きになろうと思ってました。曲たちのことやメンバーのこと。

2年半ほど在籍した結果、正直好きなジャンルの1つにはなったんですけど、本当に自分が好きで自分が発信したい音楽にはなれませんでした。

 

変な話、僕がゴゼヨに感化されてアプドリを辞めてたら解散は無かったかもしれない。

でも、やりたい音楽はアプドリの方でやれてたから、そっちで自分の中にあるモヤモヤを消化していたような感じでした。

 

ゴゼヨでは他人が作った曲に歌を乗せるという貴重な経験をさせてもらいながら、同時になんだろう、ある意味少し屈辱的な経験というか。

でもそれを乗り越えてバンドを好きになって、このバンドでやっていこうという気持ちになっていくんだろうなって思ってました。

 

 

でもやっぱり、好きになったところでやりたい音楽は変わらなかったんですよ。

 

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 最終的には人間嫌いの僕がちゃんとメンバーのことを好きになって、メンバーのことを好きになっちゃったから曲のことも好きになりました。

ライブの時も自分たちの曲をかっこいいと思って演奏できるようになったんです。

 

その上で自分と相談したんですけど、答えは変わらなくて。

辞めるということを伝えました。

 

やりたいことはあったので、それを殺してたら

「オレ、このまま終わるな」って、オレの一生終わるなって思ったんです。

そんな気持ちのまま皆の前に立ってられなかったので。

 

その後、何度も話し合いを重ねて僕に気持ちの変化が無かったのでそこで解散が決まりました。

 

 ー一輝が加入当初から付いて回っていた問題が最期まで払拭できずに、最終的には自分の人生と相談して辞めたということですね?

 

本当その通りですね。

 

 -やりたいことがアプドリでやれてたが故の、ゴゼヨ脱退・解散だったのですが、では何故アプドリも解散という結果に?

 

僕が「アプドリも辞めたい」って話をしたんです。全くゼロの状態から始めたい、と。

その時の現状では全くバンドを楽しめていなかったので。義務感というか「自分が決めたんだからやらなきゃ」「色んな人を裏切ってこの道を選んだんだから」というのが、ずっと心の中に強くあって。

 

アプドリはメンバーに話したらすぐに理解してくれました。

たしかに、メンバーは他のバンドも組んではいましたけど、軽い気持ちで承諾してくれたわけではなく、僕が表現したかったことに付いて来たんだから最後まで僕のやりたいようにやらせてくれたというか。

 

僕が辞めたらそれはもうUp dripperではないから解散しよう。

という形で送り出してくれました。

 

ー一度リセットしたということですね。そこからシルエ結成までの経緯は?

 

ベースの圭太と高校生の時に一緒にバンドやってたんですけど、僕は本当に友達がいないので

 

—そうですね。

 

うるさい。ずっと二人で呑みに行ったりしてたんです。圭太は少しバンドをやることから離れていて、「高校の頃に戻ったようなバンドやりてえなあ。」って話をしてました。

その時間が個人的には凄く幸せで、そこで色んなものに決心がついたんです。

 

—このバンドだ、と?

 

そうです。

「これが僕が小さい頃から夢に見ていた景色を見にいけるタイミングなのかもしれない。」その第一歩だと感じたんですよね。

 

そこからはメンバー探しですね。とにかく「おもしれえ奴を探そう」と。

で、最初に白羽の矢が立ったのがドラムのもみきです。

ギター見つかるかなあ、なんて思ってたらもみきの後輩に面白い奴がいるってなって、電話で呼び出して飯食って決定したのが侑弥です。

 

その時の僕の考えとしては「売れよう」とか「バンド本気でやってます!」とかより、何年も一緒にバンドをやれるような関係性を築けるようなメンバーを探そうと思った結果のシルエですね。

 

最初はとても不安だったんです。アプドリも辞めて自分に何が残るんだろうとか考えたりして。

でも、今客観的に自分を見て今まで組んできたどのバンドよりも僕は楽しそうにやってると思います。

だから、それがお客さんに伝われば良いなって思ってます。

 

—タイトルにもあるように“五十嵐一輝、なぜシルエ?”の答えとしては“高校生の頃に戻ったような楽しいバンドを、何年も続けられるようなメンバーが見つかったから。”ということになるかな?

 

そうですね。そこがメインですね。かつ、このメンバーで予想以上の化学反応が起こっているのも気持ちがいいですね。

 

—わかるなあ。正直、シルエのメンバーを聞いた時にこんなに良い方向にまとまると思ってなかったです。でも、エーテルの撮影の打ち合わせの時もメンバー間凄く空気良いし、楽曲も凄く良い。撮影中も空いてるメンバー同士で自然と曲合わせたりセッションしてみたり。これが自然と出来てるのはすごいなあ、と。

 

正直、まだ不安はありますけどね(笑)

 

—でも過去一番やりやすい?

 

過去一番ですね。あと、曲が出来るペースが本当に早い。スタジオで僕が弾いたテキトーなフレーズに良い感じに合わせてきて、それで1曲できちゃうみたいな。

しかも、メンバーは自分たちの曲が大好きなんですよね。

 

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—本当にずっっと聴いてるよね(笑)

 

そうなんですよ。自分たちの曲を車で流しながら圭太を迎えに行って、車に乗り込んだ圭太がイヤホン外して「同じの聴いてたわ!」みたいな(笑)

そうやってメンバーが自分たちの曲を好きでいてくれるのに凄く救われるし、曲好きって言われると更に曲を好きになっていく。

助けてるつもりは無いだろうけど、助けられてますね。

 

しかも、音楽以外のところでも凄く助けてくれるんです。

圭太はデザインを考えられるし、トレイラーを侑弥が作ってくれたり、もみきはバンドの動きを考えてくれる。

 

—もみきは社交性すごいもんね。

 

ピカイチですね。エーテルのダンサーさんはもみきの知り合いだったりで、交流が凄く広いからそこでも助けられてますね。

 

—もし、圭太がバンドやりたいって言わなかったらどうなってましたかね。

 

これを言うと圭太が重く感じちゃうかもしれないけれど、ダラダラとゴゼヨもアプドリも続けていたかもしれないです。

圭太のお陰で決心がついたので、多分今も続いてますね。

 


シルエ / 「エーテル」(official music video)

 

—今回MVを公開したエーテルの話も聞いていきたいのですが。「光と影」というのが歌詞のテーマでありMVもそこがテーマだったわけですが。「影」は昔のやりたいことをやれてなかった自分、「光」は今現在の自分。ということになるんでしょうか?

 

そうですね。仰っていただいた通り、影が過去で光が未来だとすると。光が無いと影が出来ないし、影があるから光の位置が分かる。それこそ何の為に作った曲かというと、この曲が影になってくれれば良いな、と。曲の最後に「影より君へ送る」と歌ってるんですが、完全に自分に向けてで。

 

自分らが成長していくにつれて、あの曲もどんどん背中を押してくれるんじゃないかと。

孤独感をMVでは表現しつつも、メンバーがいるから前に進んでいけるんだっていうのを書きたくて。

  

充実しています。スタジオが一番楽しみです。


—正直、どんな毒を吐くんだろうなんて話を聞く前に思っていたんですけど、バンドを長くやっていると見失いがちな「ただ楽しいからバンドをやっている」という原点に立ち返っただけなんだな、と話を聞いていて思いました。

 

確かに愚痴っていた時期もあったんですけど、「そんなこと言ってるのカッコ悪いっすよ」ってある後輩に言われて。

過去を気にするのも大事。エーテルでも歌っているし、過去を気にせず前に進めなんてことは言えないです。バンド辞めたいって兎に角思っていた時期もありましたが、今それを言っても誰の心にも響かないですよね。

いずれするかもしれませんが、今は毒吐いたりはしません。

 

—現状がマイナスでもプラスでもプラスに持っていくしかないですしね。

 

ほんとにそう。今はとにかくシルエが楽しいんですよ。

本当に充実しています。今はスタジオが一番楽しみだし。

 

—おお。それは良いですね。スタジオってバンドマンからすると「バイト終わって、あー、これからスタジオだー、、」みたいな。義務感のようなものあるもんね。

 

正直、思ってました(笑)

でも今は仕事が終わったら「よしっ!今日はどんな曲を作ってやろうかな!」っていう気持ちで臨めているんですよ。

 

しかも、メンバーがアレンジとか加えてくるんですよ。アホなのに。

それに僕はいちいち驚きながら目を合わせてニヤニヤするんです。本当に高校生に戻ったみたいなことを今やっています(笑)

 

スキルが身に付いた高校生だと思ってもらえれば見やすいかもしれない(笑)

 

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 —高校生にしては上手いなあ、くらいでね。 メンバー同士の絡みとか見てても本当に男子校生の放課後の教室って感じだよね(笑)

 

そうそう。本当にそう。毎日こんな感じでした。

オトナをはき違えたオトナ達も沢山色んなことを言ってきましたが、結局は損得じゃないところでバンドをやりたかった。

 

でも、売れる売れない関係無しで組んだバンドですけど、スタジオ入ってメンバーが演奏しているのを見ていると売れる気しかしないんですよ。

どうしてもこのメンバーで認められたいって思ってしまうし、それはメンバー全員が思ってくれているはず。それが凄く心地良いですね。

 

—最後に少し前の一輝と同じように影の中で頑張っている人たちに一言もらってもいいでしょうか?

 

辞めたいことがあっても、それを続けている人たちにっていうことですね?

音楽だけじゃなくて恋愛とか学校、仕事などいっぱいそういう問題はあると思うんですけど、たぶん、そのまま続けて大丈夫。決心がつくまでは。決心がついてからじゃないと、その後は何をやっても中途半端になっちゃうと思います。

 

変にグラグラしないぐらいの決心がついたら、全てを投げ出して大丈夫です。

「やりたいこともやれずに何やっているんだろう。」と思いながらダラダラしていても大丈夫。そういう人は一生ダラダラする。

でももし、決心がつくようなことがあったならその瞬間に辞めるべき。

 

それまでは大丈夫。

僕ももっと若くしてこうなりたかったなって思うけれど、言っても仕方ないし、ダラダラがあったから今があるわけですし。

 

だから、揺れに揺れて決心を固めてほしいですね。

そうじゃないと死ぬほど後悔すると思います。もちろん、その先にある幸せというのもあるとは思いますが、決心が固まってからの方が楽しいです。

 

「苦しいなら辞めな」なんて無責任なことを言われても当時の僕は苦しかっただけなので、そんなことは言わないです。

 

僕も固まってはいるけど、どうなるかなんて分からず走っている。

でも、結果出したいんですよ。そして、こうやって悩んでる人たちの憧れになりたいんです。救いになりたいんです。

 

だから、シルエを名乗る時はスーパーヒーローバンドって呼んでいます

誰かを救いたいのもあるけど、誰かの救いになりたいっていうのもあって。

 

 

だから、これからもスーパーヒーローバンド・シルエよろしくお願いします!!

 

<了>

 

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